home
乱暴な姫たち(村田兼一写真展によせて)

 やんごとなき高貴な姫君を、ほしいままに扱ってみたいという欲望は、男なら抱く ファンタジーだろう。
村田兼一にとって写真とはそのような欲望に形を与える装置にほかならない。イメージの罠に誘いこまれた姫たちは、裾を割り、胸をはだけて、これ以上ない淫らなポーズを要求される。
しかしいくら貶められ、汚されていたとしても、姫たちは凛とした態度を保ち続けている。それどころか、屈辱を快楽に変えてしまうメカニズムを、彼女たちはひそかに身につけているようでもあるのだ。
乱暴な姫たちにふり回され、無理やり奉仕させられているのは、実は写真家の方かもしれない。

  村田の写真術を特徴づけているのは、凝った舞台装置や演出とともに、精妙な着色の技術である。手彩色(ハンドカラー)という技法は、写真が発明されたばかりの十九世紀に大流行した。当時はカラー写真が技術的に完成していなかったから、仕方なく モノクロームの印画に絵具で色をつけるやり方が発達したのである。
しかし、村田はカラー写真全盛の時代にあえて古風な手彩色の技法を使うことによって、色つきの悪夢とでもいうべき幻想的な雰囲気を生み出すのに成功した。その繊細でエロティックな色の層が、つややかな姫君たちの肌により一層の輝きを与えているように感じられる


 飯沢耕太郎(写真評論家