象の棲む家

 

この作品は03年の8月に撮影した。真夏に屋内で一シリーズを作るのは初めてのことである。暑かった。
モデルの方は140センチと少しと小柄な方で、鬼にさらわれる童女といったイメージが強かった。
ここのところ形の面白さを追って撮影していたが、この時は物語風に撮影してみた。
「痴蛙」依頼、真鍮製の象に出演願った。
下の文章はスナイパー掲載時に書いたもの。

象の棲む家テキスト


今は昔。幼き頃より、いと聡明なる姫君おわしましたり。 父君、誉れに思し召して愛で給ふ。
姫君やうやう長じ給ひて、一人寝所におわしますと、几帳の陰より二匹の怪しきもの現われり。
「何ぞ」と問ひ給ふが返しなし。
重き足の音で物の怪の如く姫君に近づきたり。
その姿、物語に聞く天竺の獣の如し。しかし噂程大きくもなく子犬の如し。
翌朝この事父君に申し上げるに、
「象は天竺にて知の神、聖天(ガネーシャ)と通ず。吉兆なるかな」 と喜び給ふ。
その夜も重き足の音と共に天竺の物の怪現われり。
姫君、これを丁重にもてなし給ふが、非道にも怪しき術で姫君を縛り上げ、 その長き鼻で姫君を陵辱す。
この辱め父君に申し上げるも、
「聖天と聡明なるそのたの子、姫にも増して聡明なる御子を授かり給ふかな」 と、いと喜び給ふ。
姫君、父君の言葉に逆らわず夜毎の交わりを諦むる。
三日三晩の交接の後、二匹の獣は次第に形を増し、終には姫君を踏み潰したり。
また終には屋敷をも踏み潰したり。

後に帝、この話を哀れに思し召して、かの屋敷跡に聖天の社を建立し給ふ。
これが聖天の社の縁起とするが、今は定かでなし。


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